初唯とのやりとりを終え、いよいよコミュニティマネジメントについての本格的な説明を始める沙智。陽には聞き慣れない用語が飛び交うが、沙智は一つ一つ丁寧に解説していく。
コミュニティマネジメントの簡単な説明はすでに部長からあったと思いますが、まずは私たちのクライアントのことから説明するのが良いでしょうね。私たちのクライアント、あ、お客様のことですけれど、は企業のアカウントやサービス、商品などですわ。特に最近多いのはゲーム業界のお仕事で、これからあなたにお願いするのも、とあるゲームのコミュニティマネジメントになります。
そう、ゲームです。コミュニティマネジメントとゲームは非常に相性が良いのですわ。特に、オンラインの対人ゲームが最適なのです。
オンラインの対人ゲームって、FPSみたいなやつですか?
その通りです。FPSやTPSが代表的なもので、サッカーや野球等のスポーツゲームや格闘ゲームとも相性は良いと言えるでしょう。より効果を感じやすいのはFPSやTPSだと思いますけれど。
チームの概念が取り入れやすいのですわ。スポーツゲームも各キャラを一人が操作する、みたいな仕様のゲームであれば真価を発揮するかもしれませんね。まだそのようなゲームを扱ったことはありませんが。
チームというのは、ゲーム内にチームを組んで戦う概念があることを指しているのですが・・・、いったんこの辺で話を切り上げたほうが良いですわね。細部のお話になっていましますので。それよりもなぜ対人ゲームと相性が良いかのお話をするほうが先でしょう。
具体的に今回お願いするゲームを教えたほうがイメージしやすいと思います。ゲームタイトルはスプラッシュシューティングと言って、スカイゲームエンタテイメント株式会社が今月末リリース予定のTPSですわ。
先ほどの反応から、ゲームには多少お詳しいのかと思いましたが、やはりご存知でしたわね。その通り、スカイゲームの新規IPとしては5年ぶりになる話題の大作ですわ。ゲームの内容は8対8のTPSで、子供から大人までかなりの層をカバーして楽しめるような作品になっている、とのことです。実際に試遊させていただきましたが、期待に違わぬ作品になっていると感じましたわ。・・・どうかいたしました?
なにやら陽が笑いを押し殺しているように見えた。
すみません、沙智さんがゲームをしているイメージが全然湧かなくて。
私にとってはもはや見慣れた反応だ。
・・・よくそのようなことを言われるのですけれど、私はれっきとしたゲーマーですわ。
そう、私はゲーマーだった。英才教育の賜物か、本当にいろいろなことを学び、習わせてもらった。文学的には花道、茶道からピアノ、ヴァイオリンなどの音楽、運動は陸上競技からバスケットやテニス等の球技までなんでもこなしてきた。何をしても一定以上の成果を出してきたし、特に不自由した記憶はない。ただ、特別何かに惹かれることはなかった。
しかし中学生の頃、親の親戚からもらった携帯ゲームが自分の生活を大きく変えた。最初にプレイしたゲームはかなり難易度が高い(と後で知った)SRPGだった。私はその難しさと面白さに魅了された。基本的に親から与えられる一方だった自分が、自分から欲したのはあれが初めてだったと思う。そこからはジャンル問わずなんでもプレイした。もちろん勉学・教養は両立させた上で、である。これまで、表向きにはゲーマーな一面を誰かに見せてきたことはなかった。一流の淑女にはゲームなど不要だからだ。もちろん、親に悟らせたこともない(たぶん)。だが、それゆえ趣味を共有する相手がいないのがある種の悩みだった。
そんなある日、親戚の知人がアルバイトを募集しているという話を聞いた。その業務内容はコミュニティマネジメントという聞きなれないものだった。時間に自由の利く仕事ということで、特に内容も確認せず興味本位で応募してみたところ、すぐに採用してもらえた。つまらなかったら辞めれば良い、程度に考えていた。それまで社員だけで回していたらしく、なんと私が始めてのアルバイトだったらしい。業務の内容を聞いてゲームに携わることができるということで、本当に嬉しかったのをよく覚えている。コミュニティマネジメントという言葉とゲームが結びつきづらいため、公にしていてもバレづらいのが沙智にとって最大のメリトットだったかもしれない。しかも、このアルバイトには思わぬ特典があった。
こほん、とまるで漫画のような咳払いを一つして、
私のことは置いておいて、続きを説明させていただきます。スプラッシュシューティング、スラッシュですが、こういった対人ゲームで企業が重視すべきことはアクティブユーザー数です。アクティブユーザー数というのは、実際にゲームをプレイしている人数のことですわ。単位としては、一日当たりのDAU(ダウ※1)や一月当たりのMAU(マウ※2)を指標とすることが多いです。
※1 Daily Active Userの頭文字(一日にプレイしているユーザー数のこと)
※2 Monthly Active Userの頭文字(一ヶ月にプレイしているユーザー数のこと)
昔のゲームは、一部を除いたほとんどが買い切りで、各々がプレイしているだけでしたが、対人ゲームやMMOはそのゲームを実際にプレイしているユーザーがいるかどうかが最重要になってきます。もちろん一人プレイモードもゲームの重要な要素の一つではありますが、対人メインのゲームでユーザーが減少すれば、マッチングもしなくなっていきますし、輪をかけて人が離れていきますわ。
まさに負のスパイラルに入ると言えます。そうなれば運営は立ち行かなくなり、サービス終了、といったことが起きてしまうのですわ。あなたもオンラインゲームをプレイしたことがあるなら、そういった場面に出会ってしまったことが少なからずあるのではありませんか?
そう、ですね。昔やっていたMMO RPGがサービス終了した時は残念でした。結構やり込んでいたんですけど。
もちろん私もそういった経験はあります。つまり、サービスを維持するために重要なことは、いかにユーザーが多い状態を維持できるかということになります。従って、現状のアクティブユーザーを維持し続けユーザーの流出を防ぐことと、新規のユーザーを増やすこと、大きく分けてこの二点をクライアントは目標としているのですわ。そして、私たちが行っているのは、まさにこの活動になります。
DAUとMAUについては先ほどお話いたしましたけれど、陽さんは、この数値を向上させるために必要なことはどのようなことだと思いますか?
ええと、『既存のプレイヤーが減らないようにすること』と『新規のプレイヤーを増やすこと』ってことであってますか?
その通りですわ。ただ、一口にプレイヤーを減らさない、プレイヤーを増やすと言ってもそれほど簡単なことではないのです。もし簡単にできるのであれば、当然クライアント自身でその課題を解決できているはずです。
プレイヤーを増やすためには、商品であるゲームそのものの価値を上げる工夫をする必要がありますわ。プレイヤーの要望や不満を拾い上げ、どうしたらより良いゲームになるのかクライアントに提案する、といったところまで、私たちの仕事になります。
思わずニヤッとしてしまったが、初唯には見られていないと良いな、と思った。
もちろん。私たちはクライアントとプレイヤーの中間に当たるポジションにいます。一番客観的にゲームを見ることができるのですわ。そして双方が求めているものをバランス良くまとめてクライアントに提案することによって、ゲームそのものに反映されることもあります。それがこの仕事の一つの魅力と言えあますわね。
この辺り、結構ドヤ顔をしていた気がするが、このぐらいは許してほしい。
また、既存のプレイヤーを減らさない、というのは私たちの担う最も重要な役割といえるでしょう。基本的にクライアントが望んでいるのも継続率の向上です。陽さん、ソーシャルゲームの一週間の継続率をご存知?
いえ・・・でも、そうですね、わざわざインストールしているぐらいですし、50%ぐらいでしょうか?
正解は10%〜20%ほどです。これは100人がインストールしていても、一週間後には十数人しかプレイしていない、ということを意味していますわ。継続率がどれだけ重要な指標かわかるでしょう?そしてそれは私たちだけでどうこうできる問題ではありません。
陽が難しそうな顔をしている。
私たちがなすべきことは、ゲームを取り巻く環境を活性化させることであり、直接プレイヤーを維持するために働きかけることだけではない、ということですわ。どれだけ私たちがプレイヤーに働きかけ、コミュニケーションをとったとしても、ゲームそのものが盛り上がらない、面白くなければプレイヤーは離れていくものです。
対人ゲームのプレイヤーは同じゲームをプレイする対戦相手や友人との間にあるコミュニケーション、つながりを無意識に求めているといえます。つまり、プレイヤー間のコミュニケーションを活性化させることが、継続率に最も影響を与えるのですわ。
なんとなく、ですけど、わかった気がします。でも、まだちょっと、理解が追いついてないですね。
そしてそのために誕生したのがIRIS(アイリス)です。IRISについてはもう聞いているのですよね?
ではおさらいになりますが、IRISはイニシエーター(Initiator)、リサーチャー(Researcher)、イグナイター(Ignitor)、サポーター(Supporter)の頭文字をとったもので、一つ目が潜在顧客の検出・流入増加、二つ目が市場の調査、三つ目がコンテンツの紹介・拡散、四つ目が顧客のサポートとなります。
察しが良い子は好きよ。ええ、まさに新規のプレイヤーを増やすことがこの役割と一致します。そしてコンテンツの紹介拡散、顧客サポートは既存ユーザーの維持活動ですわね。そして、これからあなたに最も大事なことをお伝えいたしましょう。それはIRISのミッションです。ミッションというのは、簡単に言えば達成しなければならない目標のことですわ。
IRISのミッションは『私たちが運営するコミュニティーがプレイヤーさんにとって自分の居場所であり続けること』です。
まだ、僕が理解するには、時間がかかりそうですね・・・。
ふふ、そうかもしれないわね。では、まずは私が得意としていて、かつとっつきやすいリサーチャー業務から紹介しましょうか。
ちょっと待った〜。そこはイニシエーターからでしょ〜。初唯がやるよぉ。
勢い良く横から初唯が乱入してきた。
はぁ、あなたは全く・・・。まぁ、いいですわ。お願いしましょう。
沙智のワンポイントレッスン
最後にもう一度、コミュニティマネジメントの指標について、おさらいさせていただきますわ!
コミュニティマネジメントで大切な指標となるのは、
- DAU(Daily Active User) / MAU(Monthly Active User)
- 継続率
の2点ある、ということはご理解いただけたかしら?
ここでは、それぞれについてもう少し深く掘り下げていきましょう。
DAU / MAU
DAUは Daily Active User の略、MAUは Monthly Active User の略で、1日または1ヶ月あたりにコミュニティを訪れてくれたユーザーさんの数を表していますわ。
DAU や MAU が多ければ多いほど、コミュニティが賑わっている、ということね。
継続率
継続率はその文字の通り、コミュニティに登録してくれた人が1週間後、2週間後、そして1ヶ月後、、、にコミュニティを利用し続けてくれている人の割合のことを指していますわ。
継続率が高ければ高いほど、ユーザーさんがコミュニティに居着いてくれていることを表している、ということね。
他にもコミュニティマネジメントに役立つ指標はたくさんあるのだけど・・・まずはこの2つをしっかり抑えておきましょう。
計測ツール
こういった指標を計測するためのツールはいろいろあるのだけれど、ここでは弊社も使っている代表的なサービスである Google Analytics を紹介いたしましょう。
Google Analytics
もし Google Analytics を導入したいとお考えの際は、技術部のエンジニアに協力してもらって、サービスのプログラムに手を入れてもらう必要がありますわ。
使い方を工夫すれば、他にも様々な指標を知ることができるコミュニティ運営には欠かせない存在ね。
最後に、ここまで読んでいただいた皆様に、数値ばかり見て大事なことを忘れてはならない、ということをお伝えいたしますわ。
IRISのミッションは
『私たちが運営するコミュニティーがユーザーさんにとって自分の居場所であり続けること』
です。
例え数値が一瞬向上したとしても、このミッションに即した施策じゃないと、意味がありませんわ。数値は非常にわかりやすく、見せやすい指標ですから、どうしても数値だけを追いがちになります。ですが、実際に運用していると、数値だけでは見えない情報がいろいろあることに気がつくでしょう。それらに目をつぶって数値を追い求めるような、そんなやり方をしないために、私たちはこのミッションを定義しましたわ。このミッションを達成できていれば、 DAU / MAU / 継続率はじわじわと向上していくはずです。
私たちはそう信じて活動していますわ。
次回以降でコミュニティマネージャーの詳しいお仕事について紹介するからお楽しみにね。