コミュニティマネジメントとは何か?なぜコミュニティマネジメントが必要なのか?何も知らない普通の大学1年生陽は、日本ではまだ稀な存在であるコミュニティマネジメントを事業の中心とする会社、SMC(ソーシャルメディアコンサルティング)株式会社のアルバイトに偶然応募する。そこで待ち受けていたのは・・・。
第一話 君はコミュニティマネジメントを知っているか? の目次
1-0. コミュニティマネジメントと始まりの刻
3年前、現SMC(ソーシャルメディアコンサルティング)株式会社の部長である晃平は、コミュニティマネジメントの必要性を会社に強く訴えた。そして今日もまた、新たなコミュニティマネージャーが誕生しようとしていたのだった・・・。
ここはMC(メディアコンサルティング)株式会社の会議室。
どれぐらい時間が経ったかなぁ?たぶんもう10時間は経ってるわ。アホらし。
結局、その優位性が伝わってこないんだが?
はぁ、本当に会議ってのはバカバカしいなぁ。半分ぐらいは真面目に聞いてないだろうし、寝てる人もいるし。みんな帰ればいいのに。
気づかれないように小さくため息をつきながら、
あぁ、それはですね、先ほども申し上げた通り、現代においてコミュニティをエンハンスさせるためには、SNSの運用が切り離せない段階にきてるからなんですよ。実際コミュニティマネジメントが充分に認知されている欧米では、すでにその優位性が示されています。つまり、コミュニティマネージャーが専門的な職種として受け入れられているんです。
とりあえず早く帰りてぇ。まぁ、俺が言い出したわけだし。このままじゃ会社が立ち行かなくなるのは明らかだから、救世主になってやろうじゃないか。
この話が通らなければ晃平はもうこの会社に残るつもりはなかった。事業が破綻するのはそう遠いことではない。
・・・
これは3年前、晃平(こうへい)がコミュニティマネジメントの必要性を会社に説いていた一幕である。
現在の社名はSMC(ソーシャルメディアコンサルティング)株式会社。テレビや新聞・雑誌等の巨大なメディア全般を扱う大企業だったMCであったが、ここ数年、メディアが一斉にネットに変わったことにより、各事業が大打撃を受け、それぞれ縮小の一途をたどった。そんな中、晃平が立ち上げたコミュニティマネジメント事業部だけが、右肩上がりで売上・利益を上げているのであった。
それでも窓際なのは変わらないし・・・。けどまぁ、あの時頑張っといてよかったよね、うん。そんなやる気出して頑張るタイプじゃないんだけどなぁ、俺。
思わず口をついていたらしい。
やる気がないことは十分承知しておりますが、仕事が終わらないことには帰れませんわ。早くこちらを手伝っていいただきたいのですけれど。
沙智(さち)に突っ込まれてしまった。
あ、ごめんごめん、いや、仕事に対するやる気がないってわけじゃなくてね?
大変失礼ながら申し上げますけれど、ないと思いますわ。
そんな率直に言うかね?うーん、嫌われたもんだな。)思わず苦笑してしまった。
それより、今日は五時から面接があったのではありませんでしたか?すでに五時半ですけれど。
沙智が呆れたような顔で見てくる。どうやら俺がぼーっと回想している間に散々話しかけられていたようだ。
コミュニティマネジメント事業部のオフィスを抜け、人事部門に急ぎ向かった。
1-1. コミュニティマネージャーに必要なもの
大学1年生の陽は、ただただ大学に通うだけの日々に危機感を抱いていた。そんなある日、苦手なコミュニケーションを鍛えられそうで、しかも面白そうなアルバイトの募集を目にする。しかし面接に出てきた男はあまりにも・・・。
面接は嫌いだ。当然大学も面接がないところを選んだ。僕はどうやら一般的にコミュ障と呼ばれる部類らしい。実際コミュニケーションは苦手で、大学の新歓などからも逃げてきた。そのため、部活やサークルには所属しておらず、ごく少数の学科の友達がいるだけだ。ただ飲み会に行かないだけで、なんでコミュ障なんて言われなければならないのだろう。
現在、私立理化大学の1年生。このままじゃただ単位を取るだけで大学生活が終わってしまうという危機感を抱き、なにかアルバイトをしようと思った。せっかくだから、コミュ力が上がりそうで、かつあんまり直接的なコミュニケーションが要らないような仕事はないか探していたが、当然そんな矛盾した要望を叶える仕事が多いわけがなかった。そんなある日、学校の掲示板に張り出されていたポスターを見かけてアルバイトに応募してみた。
ポスターには、『必要なのはインターネット上のコミュニケーションだけ』と記載されていた。僕は直接的なコミュニケーションは苦手だが、ネット上でのやり取りは十分できているつもりだった。むしろ得意なんじゃないだろうか。仕事内容はコミュニティの形成とあり、この仕事ならコミュ力も上がって一石二鳥なのでは?と思った。
そんな最高の条件だったため応募したが、苦手な面接は避けては通れない。それは当たり前のことだと思う。逆に面接もしないで入社できるようなところの方が怪しくて嫌だな、とか思いながら待っていた。
すでに予定していた時間から30分が過ぎている。見るからに怪しい募集だったし、やっぱり応募したのは間違いだったかな、帰りたい、と多少後悔しながら待っていると、ようやく30ぐらいの軽そうな男が面接室に入ってきた。
入ってくるなり頭を下げて謝ってきた。
完全に忘れてた。人事の連中もちゃんとこっちに声かけてくれなかったみたいで(実際はちゃんと声をかけているが聞いてなかっただけ)、30分も待たせてしまった。
大丈夫かな?この人。忘れてた、とか正直すぎて初対面としては最悪に近い印象だけど。
あぁ、そういのは大丈夫大丈夫、陽くんだよね。一応履歴書は見てきたから。待たせてしまって本当に申し訳ないから、端的に一つだけ聞いて終わりにしよう!
・・・すみません、コミュニティマネージャーって何ですか?
そうか、やっぱり知らないよな。うーん、じゃあもういいか。よし、終わりにしよう!
す、すみません、それで終わりというのはいくらなんでも酷いと思うのですが・・・。
普段の僕では絶対に言わないようなことだが、あまりに理不尽に思えたので、そんなことを口走った。
履歴書読んだ段階で合格決めてたんだよね。それよりも君がコミュニティマネジメントにどれぐらい関心があるのか・どれぐらいの理解があるのかを聞いて知っておきたかったんだ。
俺には会社のコミュニティマネジメント部門を管理するってこと以外に、社会にコミュニティマネジメントを普及するっていう目標があるんだ。だからいつもコミュニティマネジメントの認知度を気にしているんだよ。
腑に落ちない気持ちでいっぱいだったが、とりあえず合格したという安堵の気持ちもあった。苦手な面接が一瞬で終わったので一気に緊張感がなくなった。ボスがこの適当さなら、仕事も適当にやれば良さそうだ、楽勝かもしれない。
気持ちは落ち着いてきたが、今度は不安感、不信感がもたげてきた。このまま入社して良いのだろうか?こんな怪しい男の下で働くのは正直気が引ける。さすがに最低限確認すべきことがある。
あの、結局コミュニティマネージャーってなんなんですか?あと、僕の履歴書のどこを見て採用しようと思ったんですか?
ん?あぁそうだな、その辺はおいおい話していかないとなー。とりあえず履歴書についてだけ返しとくと、いっぱい文章が書いてあったから。
この仕事は本当によく文章を書くんだ。だから日本語が怪しい人には結構無理がある。あと、大学入るまでに十分SNSを使う経験をしてきたみたいだね、それだけで採用理由としては十分かな。
確かに文章を書くのは苦手ではないし、履歴書もびっしり書いて埋めた。それは少しでも面接で話す量を減らしたかったからだが。
・・・なるほど、わかりました。ではコミュニティマネジメントについては・・・後日ご説明をお願いします。
ビクッと心拍数が上がった。唐突に指摘されたそれは、僕が昔から気にしてきたことだったからだ。
『後日ご説明をお願いします。』それも俺の仕事なんだから当たり前なんだけどさぁ、でも陽くん、少しも調べてくる気なかったでしょ。それに、今日もよくわかってないコミュニティマネジメントなんて仕事のことすら、まともに調べてきてないしね。
図星をつかれた。なにも返す言葉が出てこない。男は続けた。
いや、それでもいいんだ。俺の下で働けば、確実に変わることができるよ。なぜなら俺は自分で仕事をするのが大嫌いだからな!みんな嫌でも俺の分まで働かないといけなくなるんだ。それも積極的に、ね。
と、笑いながらその男は言ったが、僕は内心不気味さを覚えずにはいられなかった。ただ、僕は『変われる』というその一言だけで、気持ちを揺さぶられていた。
あ、しまった。自己紹介がまだだったね。俺は晃平。SMCのコミュニティマネジメント事業部部長をしている。もし陽くんが良ければ、明日からでもうちで働くことができるけど、どうかな?きっと君が変わるチャンスだと思うけどね。
この短時間でいろいろ見透かされてしまったのかもしれない。ただ、この男、晃平に対して不気味さはあっても、不思議と怖さはなかった。
少しだけ、本当に少しだけ悩んだが、僕はSMCで働くことにした。この選択を後悔することにはならないだろうという、漠然とした確信があったんだ。
1-2. コミュニティマネジメントって?
陽のやや挙動の不審な感じや応対への時間のかかり方から、だいたい予想がついていた。ぎっしり書かれた履歴書は、それを少しでもカバーしたいからなんだろう、と晃平は考えていた。この仕事をやっていれば、腐ってもそれなりに場数も踏むことになるし、多くの人を見てきたという自負がある。
というか、俺が今この地位に居られるのは、人を見る目が他の人より少しだけあっただけだからと言ってもいい。
その経験を踏まえると、
この手のタイプは自分を変えたいと思っていることが多いから、変わるという言葉が響く。
晃平は冷静に言葉を選んで会話していた。計算通り、彼はチームに加入してくれることになった。
なんかちょっと詐欺まがいな気もするんだが、まぁいいよな。今は少しでも人手が欲しいし。
そのような薄気味悪い笑いを浮かべられると、他のスタッフが声をかけづらくなりますので、やめていただけます?
少し思い出し笑いをしていると、また沙智に突っ込まれてしまった。こいつ、本当間が悪いな。
あぁ、すまんすまん。さっき話していた彼だが、入社してくれることになったよ。
30分も面接を待たせるような怪しい企業に、よく入社してくれましたわね。
いや、本当面目ない。沙智には教育係のリーダーになってもらうつもりだから。一応俺からコミュニティマネジメントがどんなものなのかは説明するけど。
毎回そう仰ってごまかしているのはバレバレですわよ。
こんなやり取りをしていても、彼女はちゃんとやってくれる。そういう関係でなければこんなに長くは続かないだろう。沙智はアルバイトのメンバー中で最も長く、かつ最初の一人だ。もう二年の付き合いになる。俺と合わない(というよりはついていけない)人は多いので、本当に貴重な人材と言える。まあ、だから最初に採用したのだが。
はぁ、と深くため息をついて彼女は仕事に戻った。
・・・
翌日、SMCに陽が再びやってきた。
昨日と同じ応接室で、今日はコミュニティマネジメントについて説明することになっている。
オーケー。んじゃその辺は人事が後で案内するから、今日はまずコミュニティマネジメントとは何かを説明しようか。
彼は自信なさそうな顔で小さな声でそう言った。
そうか、せっかくだから、簡単に調べてきたことを教えてくれるかな?
コミュニティマネジメントで検索してみましたが、正直ほとんど情報がなかったので本当に少しなんですけど、それでも良いですか?
うんうん。ちゃんと調べてきているじゃないか。陽くんは思ってた通り良いコミュニティマネージャーになってくれそうだ。
では、少しだけ。コミュニティマネジメントというのは、文字通りコミュニティの運用を行うお仕事みたいです。そのコミュニティなんですけど、調べた感じだとSNSのことを指している場合が多いみたいですね。最近になって少し有名になってきたみたいですが、海外のほうが少し進んでいるらしいってことだけがわかりました。
陽の説明はネットで数分調べれば出てくるようなことだったが、実は何時間探しても、日本語の資料はそれぐらいしか出てこないことを晃平は知っていた。
その申し訳なさそうな態度からすると、結構調べたんじゃないかなぁ。そうなるとこっちが申し訳なくなってくるな。
ありがとう、その通りだよ。結構時間を割いて調べてくれたんだと思うけど、日本語の資料はそれぐらいしかないのが現状なんだ。何冊か本が出ているかもしれないけど、それを読むほどの時間はなかったと思うしね。いや、しかしちゃんと調べてきたことは伝わってきたよ。陽くんと働くのが楽しみになってきたなぁ。
晃平は苦笑しながら説明を続けた。
それじゃあ講義の時間だ。まずはコミュニティについて話そうか。
調べてくれた通り、ここでいうコミュニティとはSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を指している場合が多い。ただ、もちろん本来のコミュニティとは人と人とのつながりであり、リアル・オンラインの全てを包含しているんだ。つまり、コミュニティというのは人と人が関わる全ての環境のことさ。
少し専門的な話をすると、広義の意味ではGoogleなどのマルチサイドプラットフォームサービスもコミュニティと言って差し支えない。人が関わる以上、そのセグメントの切り方に意味はそれほどないってことさ。ユーザーを増やすようなサービス全般はコミュニティと言えるんだ。
ではなぜコミュニティマネジメントでは、コミュニティというワードがSNSを指すことが多いのかというと、現代のコミュニケーションの領域がオンライン上を指すケースが非常に多いからだ。
まず、交流できる人数の桁が異なる。例えば、陽くんにはまだ早いかもしれないが、就職の会社説明会を開催するとしよう。大きめのホールを借りてもせいぜい1000人程度が限度、そしてその会場のレンタル料が膨大な額になることは想像に難くないよな。そんな説明会を開催できるのは大企業だけに限られるだろう。結果、中小企業は物理的に人を集められないというような格差を引き起こすことになる。
だが、オンライン上ならどうだろう?YouTube Liveで説明会を開催すれば1000人どころか、10000人だって余裕で説明会に参加してもらうことが可能だ。そう、コミュニケーションをオンラインにすることによって、物理的な制約を外すことができるんだ。
また、相互コミュニケーションの平準化が可能になるということも考えらえる。先ほどの説明会を例に挙げると、よく説明会の最後に質疑応答の時間を設けることがあるが、その際に発言をする人は非常に少ないし、そこで発言する人間がなぜか評価されるケースが多い。確かにそういった場で発言する勇気がある人は有能なのかもしれないが、本当は聞きたいこと・言いたいことがある人が、羞恥心等で発言しづらい状況を緩和することができる。実際、ネット上だとコメント・発言ができるという人は一定数いることを、君もよく知っているとは思う。
これらのことから、まずコミュニティがオンライン上を指すことが多いという理由は理解してもらえたと思う。ではなぜSNSなのか?それはSNSがオンライン上のコミュニティとしてすでに完成されているからだ。
SNSに参加しているユーザーというのは、ネット上の繋がりを求めている人がほとんどだ。つまり、SNSに参加しているということは、ほとんどコミュニティに属しているということと同義と言っていい。だからこそ、SNSをどう活用するかが、これからの世の中に重要なことなんだ。
ここまで一気に説明したが、理解できただろうか。まぁ彼なら大丈夫だろう。
軽く水を飲んで一息つき、続きの説明に移ることにした。
そこで登場するのが、コミュニティマネージャーという全く新しい職種だ。文字通りだが、コミュニティをマネジメント、つまり管理・運用する人材のことを指す。
先ほど話した通り、コミュニティの運用フィールドはリアルからオンライン、そして数多くのSNSに移り変わりつつある。今までの常識とは異なる考え方で運用をする必要があるし、それができない企業・組織・人は圧倒的に遅れをとることになる。なぜなら影響を与えうる母数が違いすぎるからだ。
俺は数年前からコミュニティマネージャーの必要性を会社に説いてきたんけど、なかなか受け入れられなくてね。この部署ができたのもつい最近のことさ。たぶん、俺が立ち上げてなかったら今ごろうちも倒産してたんじゃねーかなー?まぁ経営陣の皆様には感謝してほしいもんだね。
そのぐらい苦労して作ったんだから、俺も少しは報われてもいいだろうと思う。
あんまりイメージが沸いてないだろうから、わかりやすく説明しよう。例えば、近年動画投稿の広告費で生計を立てている人、ま、いわゆるユーチューバーだな。が増えてきていると思うが、あれはまさにコミュニティマネジメントの王道と言えるだろう。
彼らはSNSを非常にうまく活用している。動画のコメント欄やTwitterでユーザーとコミュニケーションをとりながら改善や要望に応え、作成した動画はSNS経由で拡散をしていく。うまくバランスを取って再生数を伸ばしているんだ。誰かに教えてもらってそうやっているのか、真似をしてそうなったのか、自然とそういう形になったのかはわからないが、結果的に非常にうまく運用できていると言って良い。
ただ、彼らはユーチューバーであり、コミュニティマネージャーではない。ではコミュニティマネージャーとはなんなのか?それはユーチューバーから動画制作の仕事以外の、動画の拡散やユーザーとのコミュニケーション部分を一手に引き受けたもの、というのがイメージしやすいだろうな。
ユーチューバーは動画を作成して投稿する。その後のユーザーから来るメッセージを返したり、TwitterやFacebookなどのSNSから拡散したり、といったところは俺らがやるんだ。
お、良い質問だ。このケースではなりすましが有効だろうな。もしなりすます場合は、事前にかなりその人のキャラクターを理解・学習しておく必要がある。
いや、もし自分が炎上させちゃったらどうしようって。
そうだな。まさにその辺がコミュニティマネジメントの難しさなんだ。その炎上しないための対策や炎上後の対応なんかはおいおい説明していこうと思う。ちなみに、わかりやすい例えだからユーチューバーを挙げたが、俺らはユーチューバーみたいな個人から仕事を請けたりはしていない。基本的にお客さんは企業やサービス、商品だ。
SNSの企業アカウントってあるだろ?有名なところでいうと某健康機器メーカーとかゲームメーカーとかだな。あぁいうところの、いわゆる中の人はコミュニティマネージャーに分類される。ま、俺らからししてみれば、コミュニティマネジメント業務の一環でしかないがな。そういうアカウントの運用代行をするのが俺らの仕事だ。ただ、もちろんTwitterに投稿することだけが仕事じゃない。
俺の考えでは、コミュニティマネージャーの役割は大きく四つに分割される。一つ目が潜在顧客の検出・流入増加、二つ目が市場の調査、三つ目がコンテンツの紹介・拡散、四つ目が顧客のサポートだ。内部では、それぞれの役割をイニシエーター(Initiator)、リサーチャー(Researcher)、イグナイター(Ignitor)、サポーター(Supporter)と呼んでいて、英語の頭文字をとってIRIS(アイリス)チームという組織を編成した。
ただし、勘違いしてほしくないんだが、これらの業務は別に一人が一つできれば良いってもんじゃなくて、全員が全部の役割を理解・実行できるようにしておいて、得意なところはさらに伸ばすという方針で組織化しているんだ。だから陽くんにも四つの役割全てを担ってもらう。細かい説明は、そうだな、随時各メンバーから聞いてほしい。まずはリーダーの沙智から話を聞くと良い。
さて、ここまで一気に話してきたが、これで終わりだ。何か質問はあるかい?
えっと、今は頭がいっぱいいっぱいで、ちょっと追いついてないかもです。
そうだよね。業務をやってれば自然と学べるから、だいじょーぶ、だいじょーぶ。
仕事を終えると口調がことさら軽くなるのが晃平の特徴だった。
んじゃ今日はここまでかな。次人事の人と手続きあるから、それ終わったら今日は帰っていいよ。来週から入ってもらえるんだよね?
そう言って晃平は面接室を後にした。